大学卒業後、知的障がい者福祉施設で生活支援員として働く中で、木工作業をしている障がい者の人たちが受動的で楽しくなさそうに見えました。もっと主体的に表現できることはないかと絵画活動のサポートを始めました。その後、鞆の浦にある『鞆の津ミュージアム』のオープンに携わり、2016年に福山市花園町に『クシノテラス』をオープン。アウトサイダー・アートとは、障がい者や犯罪者など正規の美術教育を受けない作り手が自己流に表現した作品群のこと。世の中から正当な評価を受けていないアウトサイダー・アーティストを発掘し、その作品を紹介するのが、アウトサイダー・キュレーターとしての私の役割です。

アートスペース『クシノテラス』を拠点に、展覧会やトークイベントを開催するほか、書籍の執筆、海外のアートフェアへの出展などを通してアウトサイダー・アーティストの魅力を多方面から伝えています。また、表現者の自宅やアトリエを訪れるツアーを全国各地で約20回にわたって開催。福山市を中心とした地域の表現者や魅力的なスポットを多くの参加者やタレントゲストとともに巡る「びんごトリップトラベル」も実施しました。例えば、福山市内でカラクリ人形の制作をするスナックの店主、貝と珊瑚を20万点以上コレクションした私設博物館のオーナー・瀬尾夫妻など、これまで紹介されることのなかったユニークな人々に光を当てて紹介。東村町かかし祭りの見学、地元和菓子店でのお菓子制作体験など、福山ならではのローカルな魅力を発信しました。

クシノテラス　アウトサイダー・キュレーター
櫛野 展正さん

アートに枠がなくなり、アウトサイダー・アートという言葉がなくなる日まで、表現者たちが笑顔で穏やかに暮らせるよう伴走していきたいと思っています。彼らが追求しているのはお金や名声ではなく、純粋に自身の世界を表現し、よりよく生きること。作品だけでなく、その生き様を知ってもらいたいのです。これまで紹介アーティストは300人以上にのぼり、福山市在住の表現者も10人ほどいます。美術館に展示される芸術だけが価値あるものではなく、社会の周縁で人知れず表現活動を続けている人たちにスポットライトを当て、彼らの表現に価値を見出してもらえるよう、アウトサイダー・アートの魅力をこれからも伝え続けていきたいです。