医療的ケア児とご家族の力になるために。
きっかけは2014年頃。福山医療センター小児科の先生から「重度心身障がい児の“食べる支援”を行ってもらえないか」と相談を受けたのが始まりです。これまで病院から出たこともないような重度の障がいや病気をもった子どもたちが、医療の発達によって自宅でのケアが可能になったのがその頃。それと同時に、医療的ケア児とそのご家族には新たなハードルが生まれました。
要介護高齢者の場合は、ケアマネージャーと呼ばれる専門のコーディネーターに介護生活の支援業務を行ってもらえます。しかし小児の場合は、このような支援制度が弱いため知識も経験もないお母さんたちが自分の力で子どもたちを支えていくしかありませんでした。
そんな状況を受けて、お母さんたちが抱える不安や孤独を少しでも解消できたらと、当院のカンファレンス室を開放して、子どもたちとそのご家族が交流できる場「ぽかぽかくらぶ」を立ち上げました。同じ悩みをもったママ同士が情報交換をすることで、ママたちも安心できますし、私たちも課題を共有することができたのです。
医療法人社団 敬崇会 猪原歯科・リハビリテーション科 副院長
猪原 健さん(右)
(NPO法人 えがおのまちづくりステッキ代表理事)(ふくやま大道芸実行委員会 次期実行委員長)訪問診療部 部長 歯科医師
猪原 光さん(左)
子どもたちを「ふくやま大道芸」にご招待!
福山市では、西日本最大級の大道芸イベント「ふくやま大道芸」が毎年5月に開催されています。これは偶然ですが、『猪原歯科・リハビリテーション科』の副院長である私がその実行委員会に入っていたことから、病院と家との往復しかしたことのないような子どもたちに、大道芸を見せてあげられないかと考えたんです。
実現のためには、乗り越えなければならない課題がありました。主な課題の一つは「バギー(車椅子)が、通常のエレベーターに入らないこと」。人工呼吸器やバッテリーなどの医療機器を積んでいるために通常の車椅子より大きく80〜100kgにもなるバギーは、一般的なエレベーターには乗りません。次に「おむつ替えのスペースがないこと」。乳児用のスペースでは小さすぎて、特別に場所を構える必要がありました。
イベント1か月前からスタッフ総出で準備をスタートし、当日は多くのボランティアの方々の支援もあって、無事に子どもたちやそのご家族を招待することができました。パフォーマーの方々のユーモアと優しさたっぷりな動きや表情に、子どもたちの顔にはそれまで見たことのないほどの笑顔が生まれたんです。
2016年以来、「ふくやま大道芸」への招待は今回で4回目。医療的ケア児だけでなく、毎年多くの市民に楽しんでいただけています。
子どもたちがまちを変える、繋げる。
そのほか、まちの医療機関や福祉サービス、ボランティア団体との交流会も開催しています。これまでご家族が一人ひとり自力で集めていた情報を一堂に集めて、気軽に相談できる場をつくろう!と、2017年11月に第1回を行いました。福祉サービス事業所や医療機関、行政の方々にもご参加いただいて、総勢100名以上にお越しいただくことができました。大道芸のパフォーマーの皆さんも応援に駆けつけてくださり、会場は笑顔でいっぱいに。医療的ケア児とご家族、まちが繋がった瞬間でした。
2018年の春には、活動のためのクラウドファンディングを行い、わずか5日間で目標の100万円を達成し、115名の方々に支援をいただくことができました。「継続は力なり」をモットーに、これからも職員一同、そしてふくやま大道芸やNPOスタッフみんなで、すべての子どもたちの笑顔のために力を尽くしていきたいと思っています。