社会で必要な力を身につける新教科「鞆学」始動。
2019年4月に開校した『福山市立鞆の浦学園』では、鞆を使って探究的に学びこれからの社会で使える生きた力を育成する新教科「鞆学」を設立。地域の人、もの、ことを教科書とし、地域の生きた情報を収集し、課題の発見・解決に向けた能力を身につける、コミュニケーション能力を育成する、郷土愛など、社会で必要な力を身につけることをめざしています。小・中学校の9年間で取り組み、テーマは、1年生「鞆町の季節による変化」、2年生「鞆にある施設・商店」、3年生「鞆の歴史的建造物」、4年生「防災」、5年生「産業」、6年生「魅力発信」、7・8年生「自己探求」、9年生「魅力発信」としていますが、内容は多岐にわたります。子どもたちの興味、時代や環境に合わせて学ぶ内容は変化していくものと考えています。
子どもの自由な発想から生まれた新商品。
例えば、6年生が「日本遺産となった鞆の浦を盛り上げる」という課題のもと、様々なPRを実行しました。地域の方から聞き取った「保命酒、瀬戸内レモン、ちりめん」という3つの特産品に注目しTOMOパンを開発。何度も試作を繰り返しながら完成した3種のパンは地元スーパーでの販売に結びつきました。マスクを縫って地域の介護施設にプレゼントしようとがんばっている生徒もいます。子どもならではの自由な発想や柔軟な考えが、これまでになかった新たな商品の開発や魅力の発信を実現しました。鞆学以外の教科でも、「苦手な科目をどのように克服するか」「自分にはどんな方法が合っているか」を自分で考えるなど、鞆学を通して身についた課題発見・解決能力が確実に子どもたちの血肉になっていることを感じます。競争ではなく、自分と向き合うことができるようになっているのではないでしょうか。予測不可能な世の中だからこそ、今何が課題なのかを考え自分の力で取り組むことが大切です。
地域の専門家が先生になって指導。
鞆にはすてきな人、すごい人がたくさんいます。そこで、鞆学プロボノメンバー(地域の専門家)による出前授業や校外活動を実施。保命酒店の社長に鞆の浦の特産品である保命酒のことを教わったり、クリエイティブディレクターからデザインについて学んだり、漁業組合長から漁業や港について教わったりします。地域の大人を巻き込み、社会で役立つ本物の知識を臨場感たっぷりに伝えてもらいます。
鞆学的な学び方を福山市全域へ広げたい!
新型コロナウイルス感染拡大による休校などがありましたが、子どもたちは「これだけ勉強したよ!」「ここが分からんかった」と自主的な姿勢をたくさん見せてくれました。子どもたちは確実に鞆学を通して自主性を身につけ成長しています。鞆学のさらなる充実をめざして教職員で定期的な振り返りを行い、公開研究会を通して他校や地域に取り組みを発信していますが、「鞆学的な学び方」はどこの地域でも意義あるものと考えています。地域の人・もの・ことを教科書にした学習のあり方を多くの学校が取り入れ、福山の担い手を育てる取り組みを広げていきたいです。
子どもたちとの関わりにやりがいと学びを感じて。
地域でクリエイティブ・ディレクターとして活動する専門家として、鞆学プロボノメンバーを務めています。昨年は8・9年生の生徒たちと鞆学のロゴマークを制作。ロゴマークの仕組みやデザインについて伝え、生徒が考えたラフ案をもとにブラッシュアップしていきました。やらせるのではなく、私自身はあくまでプレイヤーに徹して生徒の自主性を引き出すことは非常に難しく、やりがいのあるプロジェクトでした。今年は、『鞆の浦歴史民俗資料館』の依頼で、展覧会のキャラクターを生徒と一緒に制作しました。私自身も学ぶことが多く、『福山市鞆の浦学園』に通う娘を持つ保護者としても鞆学に頼もしさを感じています。9年間を通して学ばせることで、人間として必ず成長できると信じています。