“ワイン農家”として自家栽培のぶどうにこだわり続ける
福山市はぶどうの産地ということもあり、県内に三次と世羅の2カ所しかなかったワイナリーを地元にも作りたいとの想いから、内閣府の「ふくやまワイン特区」の申請に尽力。山野峡にある築120年の古民家を宿として改修し、裏庭に建つ蔵を日本一小さな醸造場として整備しました。耕作放棄地を開墾してアメリカ系の品種を植え、初年度はたった300リットルという小規模醸造からスタート。
その後数年かけて、ヨーロッパ系のワイン用ぶどう(シャルドネ、ピノグリ、マルスラン、ソーヴィニヨンブラン)や、日本古来の山ぶどうとヨーロッパ系品種を交配した『志村葡萄研究所オリジナル』の「富士の夢」「北天の雫」など、約2ヘクタールの圃場に3,300本のぶどうを植えました。
最初から条件が整っていたわけではなく、開墾、土壌改良、栽培は困難の連続。しかし、“バカ真面目”といわれるほど、“ワイン農家”として自家栽培ぶどうに強いこだわりを持っています。良いワインは良いぶどうからできると信じ、自ら納得のいくぶどう作りを追求しています。
株式会社福山健康舎 山野峡大田ワイナリー
代表取締役
大田 祐介さん
「北天の雫2021」「富士の夢2021」がG7広島サミットに採用
圃場とワイナリーが隣接しているため、収穫したてのぶどうを仕込むことができるのも私たちの強み。ぶどうとじっくり対話するように、大規模ワイナリーにはない手作り感や希少価値を大切にしながら丁寧に仕込んでいます。
2022年のぶどう収穫量は約10トンで、ワインの生産は1万本に達しました。エチケット(ボトルの表に貼ってあるラベルのこと)には山野に多く生息するサルをモチーフにしたデザインを採用。
2023年5月に開催されたG7広島サミットでは、首脳たちのランチとディナーに白ワイン「北天の雫2021」と赤ワイン「富士の夢2021」が提供され、全国から注目が集まりました。発展途上にあるワイナリーのワインを選んでいただけたことは大変光栄で、今後の励みになりました。
耕作放棄地を開墾し、山野を国産ワインの一大産地に!
福山市の最北端に位置する山野町は、現在人口500人で高齢化率は50%超。過疎化した地域を再生するためにも、ワイナリーは有効な手段だと考えています。
山野町は四季の寒暖差が大きく、ぶどうの栽培やワインの醸造に適した理想的なテロワール(気候風土)。なかでも、山ぶどうの野性味あふれる力強さを感じさせる富士の夢と北天の雫は、日本オリジナルのワイン用ぶどうとして、ヨーロッパ系ぶどうに十分対抗できる素質があります。ワイン作りは何百年と歴史を紡げる持続可能な産業であり、ワイナリーは山野町再生の切り札になると確信しています。実際に、山野峡ワインをきっかけに、山野町に魅力を感じて移住した人もいます。
町内のスーパーや産直市が廃業してしまったことを受けて始めた「ワイナリー前日曜朝市」のほか、ワインをキーワードにしたイベントなども次々と企画しています。朝市では、地域の方が野菜や加工品を出品してくださり、地元住民はもちろん、山を越えて町外から買い物に来る人もいるほど盛況。日曜限定でカレーの販売もしており、店番は地元女性グループが交代で担当してくれるなど、ワイナリーを中心に地域の人々との交流の場が生まれています。飽くなき探究心を持って高品質なぶどうとワインを追い求めるとともに、地域活性化の一翼も担っていきたいと思っています。